書画家 婁正綱の書紀行
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中国大紀行の全50話を、書画家 婁正綱氏が自身の体験をもとに語ります。
日刊ゲンダイ紙面にて好評連載中!

書画家 婁正綱氏
女性書画家。1966年、中国・黒滝江省に生まれる。12歳で書の才能に加えて、知識・知力および記憶力が高く評価され、中国政府より「智力超常児童」として認定。政府より特別教育を施される、中国の著名な書画家達に師事する。以来、その活動は国連やユニセフなどの事業に作品が採用されるなど世界の知識人・文化人等々に影響力を与えている。現在、中国を代表する書画家として、主に日本、中国、米国で活躍している。

vol.8 「日月天地」
 中国の人は、「シャングリラ」という言葉に対し、“神様がつくった土地”というイメージを持っています。人間にはどんなに頑張ってもつくれない、人間の力が立ちゆかない場所。そんな神様の力と人間との関係は、「日と月」、あるいは「天と地」になぞらえられます。そこで今回は、「日月天地」という言葉を書きました。
 神々の棲む地、「シャングリラ」に暮らすチベットの人々の信仰心を表したつもりです。チベット人といえば、彼らの生活している環境についていろいろと言われますが、私は、何より彼らの精神的な強さに引かれます。決して豊かではない生活の中で、一生懸命働き、あつい信仰心を持ち続けている。とくにモノがあふれている今の時代にあって、彼らの精神文化の高さは注目すべきだと思います。それはきっと、神様がつくった土地で暮らしているという自負があるからなのでしょうね。

シャングリラ
 「たとえようもなく美しい姿をした山が、大地の割れ目からそびえ立っていた。雪に覆われたその山は、ほとんど完璧な円錐形で、どこか子供の描いた絵のように単純な輪郭を見せていた」
 イギリスの作家・ジェームス・ヒルトンの小説「失われた地平線」の一節。彼はその中で、時の魔術から解放された平和な世界、チベットにあるとされる理想郷を描いている。その名は、シャングリラ――。チベット仏教の経典にある“円満の地”を意味する「シャンバラ」をヒントに名づけられたといわれている。
 その理想郷「シャングリラ」は、実在する。四川省の省都・成都からクルマで3日、四川省と雲南省の境にある「シャングリラ県」。2002年に中甸県から改名された。
 現実の「シャングリラ」は、老人たちが一日中、日なたぼっこをしている、まるで時が止まったような村。村人は大麦やじゃがいもを育て、ヤクを放牧し、自給自足の生活を送る。その暮らしは決して豊かではない。
 しかし、ここには“聖なる三座”がある。地元チベット族の信仰の対象となってきた三つの高峰。最高峰の「シアンレリ」は観音菩薩、その対岸の「シャルオ・ドジェ」は金剛菩薩の意。少し離れた「ヤンアミヨン」は仏の知恵を象徴する文殊菩薩を意味し、そこへの道は巡礼路となっている。
 村人の心のよりどころとなっているチベット仏教。総出で寺院をつくる村人たちの表情は明るい。理想郷は地上のどこでもなく、心の中の平穏である。チベット仏教の経典が、そして村人たちの笑顔がそう教えてくれる。
出典:日刊ゲンダイ 2006年12月12日
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