書画家 婁正綱の書紀行
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中国大紀行の全50話を、書画家 婁正綱氏が自身の体験をもとに語ります。
日刊ゲンダイ紙面にて好評連載中!

書画家 婁正綱氏
女性書画家。1966年、中国・黒滝江省に生まれる。12歳で書の才能に加えて、知識・知力および記憶力が高く評価され、中国政府より「智力超常児童」として認定。政府より特別教育を施される、中国の著名な書画家達に師事する。以来、その活動は国連やユニセフなどの事業に作品が採用されるなど世界の知識人・文化人等々に影響力を与えている。現在、中国を代表する書画家として、主に日本、中国、米国で活躍している。

vol.5 「今人不見古時月 今月曽経照古人」
 私が開封を訪れたのは、15歳のときでした。開封といえば、かつての都。有名な「満明上河図」に描かれているような、優美で華やかな街を想像していたんです。ところが、実際に行ってみたら、言い方は悪いですが、何もない、ただ古いだけの町でした。子供だった私にはそんなふうにしか見えなかったんですね。
 しかし、そんな私を驚かせたのが、夜、見上げた月の美しさでした。昼間は「この街が昔は栄えていたなんて信じられない!」と思っていたのに、夜になると美しい月を見ながらかつて華やかなりし頃の都に思いを馳せる。まさしく李白の詞の一節、「今人不見古時月 今月曽経照古人」(われわれ現代人は昔の月を見たことがない。しかし、今見ているこの月は、かつて古人を照らしていた月である)そのままの体験をさせてくれたのが、開封の月だったのです。
 今でも私の中では、開封のキレイな月が一番の印象として残っています。

開封
 中原と呼ばれる黄河中流域。黄河の流れがぐいっと方角を変えるあたりに中国六大古都の一つ、開封がある。
 7つの王朝が置かれ、宋の時代には人口100万を抱えた開封は、黄河の災いを最も強く受けてきた街でもあった。黄河が運んできた土砂が川底に積もり、天上川となってしばしば氾濫を起こす。そのたびに歴代王朝が築いた城壁が埋没する。現在の城壁は漢の時代に造られたもの。その高さ7〜8mはあった城壁もほとんど埋まってしまい、黄河が運ぶ土砂の凄まじさを目の当たりにする。
 それでも、度重なる洪水にも負けず、人々は暮らし続け、文化を育んできた。6世紀には64もの建物があったとされ、「水滸伝」にも登場する寺として日本人にもなじみが深い「大相国寺」が建立された。「千手千眼観音」の精緻な美しさが仏教文化の頂点を示している。宋の行政府を再現した「開封府」では当時の文化や風習を今に伝え、役所と裁判所を兼ねた「正庁」にはギロチンや囚人車、異国の囚人像などが残されている。
 開封の繁栄ぶりは、長択端の「清明上河図」という絵巻に生き生きと描かれている。この絵巻そのままの街並みを再現したのが「清明上河園」。開封のシンボル「佑国寺鉄塔」とともに、ぜひ一度訪れたい観光スポットである。  開封の北、「柳園口」には“現代の長城”と呼ばれる堤防が続いている。黄河に生まれ、黄河に育まれた中国の歴史は、黄河と戦ってきた人々の歴史でもあった。
出典:日刊ゲンダイ 2006年10月31日
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